経済政策の失敗は極右を招く―フランス新大統領マクロン氏への提言


掲載にあたって:この文章は2017年5月のマクロン大統領当選に際して記したものです。残念ながら、この懸念は現実のものとなりました。

 

フランス大統領選挙では事前の世論調査通り、マクロン氏が勝利し、極右政党であるフランス国民戦線マリーヌ・ルペン氏が大統領になるという事態を避けることができました。まずは、排外的なフランス大統領が誕生しなかったことを喜びたいと思います。

 

しかし、残念ながらことはそう単純ではありません。マクロン氏は排外的な価値観を否定し、EUの重要性を訴えて来ました。その点には心から賛成しますし、EUの問題点を改善し、よりよい共同体とするためマクロン氏には期待しています。

 

私が懸念するのは、マクロン氏の経済政策です。
彼の経済政策に関してはざっと目を通しただけですが、それでも「財政緊縮的」「貿易規制緩和的」「労働規制緩和的」な面が強いこと、言い換えれば「新自由主義的」な色彩が濃いことに懸念を覚えます。特に「公務員削減で財政赤字解消」と掲げていることが問題です。これは一見、改革主義的で人々の支持を受けそうな政策であるものの、かなり危険な政策でもあります。公務員改革はある程度必要でしょうが、単なる人員削減は公共サービスを削減することと同義で、社会的に弱い立場の貧しい人たちにしわ寄せが行かないか心配です。また財政規律を重視しすぎて緊縮的な財政政策を進めれば、景気と雇用状況が悪化し、さらなる格差の拡大を招く可能性があります。フランスの失業率はここ数年10%を超えており、特に若年層の失業率が突出して高くなっています。これらの問題の背景に、EUの経済政策の機能不全があることは否定できないでしょう。欧州連合新自由主義的な自由貿易政策は正しく機能しているのか、共通通貨ユーロを持つことはEUの共同体としての結束を高め、ヨーロッパの価値観を実現していくことに寄与するのか、という問いかけは、マクロン氏自身も答えるべき重要なものです。


選挙は終わった時がはじまりでもあります。
マクロン氏が経済政策に失敗し、オランド大統領のようにフランス国民の支持を失えば、次の選挙ではルペン氏が大統領となる可能性もあります。そして、緑の党を含むリベラル勢力は次の選挙に備えて適切な経済政策を提案するとともに、マクロン氏にその実施を求めるべきしょう。

 

フランス史上最年少の大統領となったマクロン氏が、歴史的資料の分析から格差の拡大を防ぐためには経済格差問題の専門家でもあるフランスのトマ・ピケティ氏、そして欧州統合に期待を寄せながらも、ユーロの問題点を指摘しているスティグリッツ氏らをアドバイザーに起用し、適切な経済政策を打ち出し格差を是正するよう願っています。