日本のマスメディアが正しく報じない文在寅大統領の重要政策ー公務員拡大と原発縮小

掲載にあたって:この文章は2017年5月の文丙在寅大統領誕生に際して記したものです。その後、2020年のコロナ危機で文大統領の対策は国内外で高く評価され、4月の選挙で親大統領勢力が圧勝しました。これにより、文大統領はより野心的な改革を進めると考えられます。

 

 

韓国で十数年振りに革新系の大統領が誕生しました。文在寅新大統領は政府主導での雇用創出と格差の是正を掲げており、雇用や結婚などで将来不安を抱く「7放世代」と呼ばれる20代、30代の若者から大きな支持を得たことが勝因とされています。

 

文大統領の政策は、日本経済新聞(2017年5月10日)によれば、以下の通りです。

 

・雇用

公共部門で81万人、民間で50万人の雇用創出

雇用創出のための専門組織を新設

・財閥改革

十大財閥、特に四大財閥の改革に集中

労働者の経営改革を推進

・税制

高所得者対象に所得税相続税引き上げ

・その他

原発政策を全面的に再検討 

 

具体的な進め方やペースはまだ不明ですが、方向性は全く正しいといえます。しかし、参考にした日経新聞をはじめとする新聞各紙や、テレビのニュースなどでは、コメンテーターから見当外れな批判がなされています。ひとつは、「公務員の数を増やす政策には疑問がある」というもの、もうひとつは「韓国経済は財閥がけん引しており、強引な改革は経済の失速を招く」というものです。しかし、これらはどちらも的外れです。

 

まず、韓国の公務員の数(人口比)は、日本と並んで先進国のうち最低水準です(前田健太郎『市民を雇わない国家』東京大学出版会、2014)。これは、充分な公共サービスが提供されてないことを示しています。従って、公務員の81万人拡大政策は、雇用対策というだけでなく、ひとびとの暮らしを守る公共サービスのために必要不可欠なものです。必要な財源は、高所得者層の増税でまかなえばよいのです。日本にも「公務員がまず身を切る改革を」と主張する政党がありますが、新自由主義かぶれの彼らの政策は全く見当違いです。

 

また、財閥を保護した李明博朴槿恵大統領時代に経済成長が加速したという事実はなく、若者の生活不安や格差問題が深刻化しています。ナッツリターン事件が象徴するように、韓国財閥の社員に対するパワハラ構造や、中小企業へ負担の押し付けは深刻であり、何ら財閥改革をためらう理由はありません。

 

もうひとつは、文大統領の原発政策です。文氏は、最近まで原発縮小に関して及び腰で、韓国緑の党もその姿勢を批判して来ました。しかし、4月14日、脱原発市民団体と政策協定を結び、政策を前進させました(文末参照)。このことは瞠目すべき進展です。

 

北朝鮮の挑発、中国とアメリカの板挟み、そして日本との歴史問題など、外交では非常に困難な状況にある文大統領ですが、経済政策に関しては初志を貫徹し、若者が不安を抱かず暮らせる社会を実現してほしいと思います。また、原発に関しては、韓国原子力ムラからの圧力に屈せず、一歩ずつ脱原発を前進させるよう願っています。

 

 

「安全で持続可能な脱原発政策策定のための政策協約」

(ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.145より、高野聡さん訳)

共に民主党19代大統領選挙ムン・ジェイン候補と原発・核研究施設の地域住民は、安全で持続可能なエネルギー政策の制定のために、現政府のエネルギー政策が根本的に変わらなければならないことに共感する。原発の危険から国民の生命を守り、安全で持続可能なエネルギー政策策定のために次期政府は積極的な脱核・エネルギー転換政策を推進しなければならない。

 

ここに、共に民主党19代大統領選挙ムン・ジェイン候補は、次期政府において、以下の政策課題を即座に推進することを約束する。

 

1.現在建設中の新コリ4号機と新ウルチン1・2号機の建設を暫定的に中止し、社会的合意を通じて運転の是非を決定する。

2.現在建設中の新コリ5・6号機と建設計画中の新ウルチン3・4号機を白紙に戻し、許可を取り消す。

3.ヨンドクとサムチョクで推進中の原発建設計画を白紙に戻し、電源開発事業の実施計画を直ちに取りやめる。

4.ソウル行政裁判所の判決を尊重し、ウォルソン原発1号機の寿命延長(継続運転)裁判の控訴を取り下げ、ウォルソン1号機を即座に閉鎖する。

5.パイロプロセッシング(乾式再処理技術)研究と第2原子力研究院の建設計画を再検討する。

6.大統領選挙後6か月以内に大統領直属で「(仮称)脱核国民委員会」を構成し、脱原発ロードマップを議論する。

 

2017年4月14日

共に民主党19代大統領選挙ムン・ジェイン候補

サムチョク原発反対闘争委員会 常任代表パク・ホンピョ

ヨンドク原発反対汎郡民連帯 共同代表チェ・テギュ、イ・ビョンファン

脱核キョンジュ市民共同行動 共同代表ハム・ウォンシン

脱核プサン市民連帯 共同代表イ・フンマン

核から安全に住みたいウルチン住民の会 代表イ・ギュボン

核再処理実験阻止のための30km連帯 共同代表キム・ユンギ