2019参議院選挙の結果分析ーれいわ新選組の躍進は日本における「左派ポピュリズム」の先駆け

掲載にあたって:このオピニオンは、2019年7月の参議院選挙直後に記したものです。


 (1)全体の結果分析―3分の2議席阻止も投票率の低下に大きな課題

 今回の参院選は、かろうじて「改憲勢力」が3分の2議席を維持することを阻止しました。しかしその一方で、投票率は前回の参議院選挙よりも6%ポイント近く減少、戦後2番目に低い48%に留まりました。低投票率を受けて各政党の得票も減少、自民党は約260万票(-13%)、公明党は109万票(-14%)、民主党系(国民・立憲・自由)は約150万票(-12%)、共産党は約160万票(-26%)、社民党は約50万票(-32%)を失いました。日本維新の会は28万票(-5%)で、これは実質減らしていないことになります。与党への期待は低下しているものの、与党批判層を立憲野党側が受け止められていないことが読み取れます。

 一方、今回躍進した、れいわ新選組は約230万票、NHKから国民を守る党(以下N国党)は99万票を獲得し、政党要件を獲得しました。与野党の減少幅を見ると、非自民で民主系にも批判的な、これまで消極的に共産党社民党に投票していた層が、れいわ新選組に投票したと推測されます。

 新党の躍進はあったものの、残念ながら今回の参院選では投票に行かない層が大幅に動いたわけではなく、投票に行く層が一部棄権に回り、一部が既存政党から新党に投票先を変えた、というのが実情だと考えられます。

 

(2)投票率とメディアの関係―SNS利用とロスジェネの支持

 投票率が上がらないのには様々な要因がありますが、そのひとつにテレビでの選挙報道の減少が考えられます。地上波のNHKと民放5社の、「ニュース/報道」番組における参院選報道の減少は顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている、と報じられています[1](※朝日新聞2019年7月19日)。一方で、日本では多くの場合、政党要件のない新党を、テレビを含む大手メディアが取り上げることはありません。躍進したれいわ新選組も、情報の発信はインターネット交流サイト(以下SNS)に頼っており、SNSを頻繁に使う層がれいわ新選組等に投票したと考えるのが妥当です。SNSを頻繁に使う層≒非高齢者層と推測され、これは「れいわを選んだ有権者を年代別に見ると40代以下が6割を占めた」という調査結果と合致します[2]。この記事では、共産党社民党の支持層が「8割近くが50代以上」であり、れいわ新選組とは「対照的」であるとも報じています。

 れいわ新選組を強く支持した40代、30代はいわゆる「ロストジェネレーション」、「就職氷河期」と呼ばれる世代です。バブル崩壊前後に成長し、崩壊後の最も景気が低迷した時期に社会に出たため就職に苦労し、非正規雇用として不安定かつ低賃金で働いている人も多く、将来不安を煽られ続けて来ました。また、民主党政権の誕生と崩壊を目の当たりにし、既存の政治への期待と失望を経験してもいます。

 では、れいわ新選組の何が、SNSを利用する「ロスジェネ」世代を引き付けたのでしょうか。

 

(3)反緊縮的経済政策―欧米の「左派ポピュリズム」とれいわの共通点

 欧州では、移民排斥・EU離脱を掲げる極右政党が台頭する一方で、ギリシャの「急進左派連合」(シリザ)や、スペインの左派政党「ポデモス」、さらにはジャンリュック・メランションが率いるフランスの左翼政党「不服従のフランス」が躍進しました。イギリス労働党内では長年、党内で顧みられてこなかったジェレミー・コービンが若手世代の圧倒的な支持を得て党首となり、アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンと最後まで民主党候補の座を争ったバーニー・サンダースも、若者世代から大きな支持を得ています。

 これらの左派新党及び、左派政党の新しい流れは「左派ポピュリズム」と言われています[3]。その理論的支柱であり、右派ポピュリズムに対する「左派ポピュリズム」の必要性を訴えたのが、エルネスト・ラクラウとシャンタル・ムフです。ラクラウとムフは、「既成の政党やリベラル・デモクラシーが機能不全に陥っている」といった危機感のもと、これまで「大衆迎合主義」と訳され、悪い意味で使われてきた「ポピュリズム」を再定義し、積極的に政治に取り入れることを提案しました。ポピュリズムとは敵を定めて味方をまとめる政治手法ですが、「右派ポピュリズム」が「外国人」や少数者を敵と定め「愛国者」をまとめるのに対して、「左派ポピュリズム」は富裕層・支配階級(エリート/エスタブリッシュメント)を「敵」と定め、その他99%、労働者、失業者、貧困層、女性、性的・人種的・宗教的・人種的マイノリティ、学生、障碍者環境保護派、子育て層、高齢者などをまとめることを目指します[4]。また、公務員や社会保障受給者を敵とする「新自由主義ポピュリズム」も存在し、日本維新の会はその典型です。

 そして、この「左派ポピュリズム」が、富裕層・支配階級を打ち破り、貧困をなくすための解決策として掲げるのが、反緊縮的経済政策です。細かな違いはあるものの、金融緩和と財政出動、デフレ下での消費税反対などは共通しており、これはまさに、れいわ新選組の経済政策です。エリート迎合主義に対抗し、大多数の人たちのための政策(反緊縮的経済政策)を掲げる政治運動、というのが「左派ポピュリズム」の本質であり、れいわ新選組は日本における「左派ポピュリズム」の先駆けとも言えます。

 また、ラクラウとムフは「左派ポピュリズム」を単なる大衆迎合とは異なり、「経済的な格差への不満を吸収するだけでなく価値観を体現する」と定義します。その意味でも、今回、重度障害の当事者2名を特別枠で擁立したれいわ新選組は、自身の価値観を体現したという点で「左派ポピュリズム」だと言えるでしょう。欧米の「左派ポピュリズム」が若者の支持を集めたのと同様に、日本の「ロスジェネ」も、れいわ新選組を支持したのです。

 今回、政党要件のなかったれいわ新選組はテレビをはじめとするメディアにはほとんど取り上げられませんでしたし、棄権する層の大多数を動かすには至りませんでした。しかし今後、政党要件を獲得したれいわ新選組の存在と、掲げる反緊縮政策はこれまでより広く認知されることとなるでしょう。ロスジェネをはじめ、「失われた20年」のデフレ不況で格差・貧困に苦しむ人々がそこに希望を見出せば、欧米の「左派ポピュリズム」ように大きな支持を集める可能性もあります。日本の「左派ポピュリズム」は政治に失望し、棄権していた層を動かせるのか。今後注目する必要があります。

 

 

<参考記事・文献>

「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も(朝日新聞2019年7月19日)
https://www.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html

れいわ、40代以下からの支持が6割 朝日出口調査朝日新聞2019年7月22日) 

https://www.asahi.com/articles/ASM7M63N5M7MUZPS00G.html

山本太郎れいわの衝撃。日本政治に誕生した「左派ポピュリズム政党」とどう向き合うか?(ハフポスト、2019.07.22)

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d357f49e4b0419fd32f6c8d

いま「左派のポピュリズム」に注目すべき理由(朝日新聞GLOBE+ 2019.03.28)

https://globe.asahi.com/article/12241185

世界が反緊縮を必要とする理由(Newsweek 2018.08.01 野口旭)

https://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2018/08/post-17.php

 

スタックラー&バス著、橘明美ほか訳『経済政策で人は死ぬか?』(草思社、2014)
シャンタル・ムフ著、山本圭訳『左派ポピュリズムのために』(明石書店、2019)
松尾匡・朴勝俊・井上智洋ほか『「反緊縮!」宣言』(亜紀書房、2019)
ヤニス・バルファキス著、朴勝俊ほか訳『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命―元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』(明石書店、2019)

 

[1] 「視聴率取れない」参院選、TV低調0分の情報番組も(朝日新聞2019年7月19日)
https://www.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html

[2] れいわ、40代以下からの支持が6割 朝日出口調査朝日新聞2019年7月22日)
https://www.asahi.com/articles/ASM7M63N5M7MUZPS00G.html

[3]シャンタル・ムフ著、山本圭訳『左派ポピュリズムのために』(明石書店、2019)

[4]松尾匡・朴勝俊・井上智洋ほか『「反緊縮!」宣言』(亜紀書房、2019)